ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

岬の兄妹②

(岬の兄妹① - ヨンマルマル) リアリティ。『ジョーカー』『パラサイト』あるいは『バーニング』など、貧困と極限をテーマにした映画を、昨年から今年に掛けて少ならからず観た。それぞれにそれぞれのリアリティ演出があり、甲乙はつけがたい。ただ『岬の兄…

岬の兄妹①

クソみたいなクソのお話……と単純に断じることはできなかった。貧困の中で自閉症の妹に売春をさせる実の兄を描く映画。「人としてどうなんだ!」という罵声は作中でも浴びせられる。確かに道義にはもとる、あまりに酷すぎる、妹を売る前に自分がなんとかして…

熱源

第162回直木賞受賞作。サハリン・アイヌという民族が、日本国における明治から昭和にかけて辿った軌跡を追う歴史小説。第160回の直木賞受賞作であり、戦後沖縄の混乱と渾沌を描いた『宝島』と対を為すような作品だというのが、率直な感想です。ただ両作では…

パラサイト 半地下の家族

ポン・ジュノ監督作品初見です。NHKでの是枝裕和氏との対談で「自分は社会派の映画監督と呼ばれたくない」と監督は発言されていました。確かに、本作はあくまで(極めて)良質なエンタテインメント映画。かつ、その娯楽性の中で社会が孕む問題を再考せねばな…

グスコーブドリの伝記

仕事で付き合いのある人から「毎年元旦に同じ本を読み、その年ごとの感想を記録することで、自己理解に努めている」という習慣を聞きました。真似をしようと思い立ち、今年から1月1日は、宮澤賢治の「グスコーブドリの伝記」を読むことに。初めて触れたの…

ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜

「魔都・上海」という言葉をそのまま映像化したような作品でした。猥雑さ、淫靡さ、抑制的だけれど扇情的な陰影をもって、往時の上海が描かれます。1921年に新聞特派員として上海を訪れた芥川龍之介(松田龍平)が主人公の異界見聞譚。芥川の「上海游記」(…

いだてん〜東京オリムピック噺〜「金栗四三篇」②

シマちゃんと並んで好きなキャラクターであり、かつクドカン作品らしかったのは古今亭志ん生の青年期を演じた森山未來。とにかくダメでずぼらで酒飲みで自堕落なのだけど、その人間臭さが素晴らしい。特に師匠(松尾スズキ)との別離のシーンは、不器用に過…

いだてん〜東京オリムピック噺〜「金栗四三篇」まで①

リアタイ視聴ができなかった2019年のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』、年末年始の休みを利用して一気見。まずは前半「金栗四三篇」まで。正直、金栗がストックホルム五輪に敗退して、さらに雪辱を期したアントワープ五輪でもメダルを逃すと…

グッドフェローズ

『アイリッシュマン』を観た流れで、未履修だったため鑑賞。監督は同じスコセッシで、ヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)という実在するマフィアの準構成員(彼は純粋なイタリア系ではないため正規の構成員ではない)を主人公に、その成り上がりと転落、およ…

鬼滅の刃

アニメ『鬼滅の刃』ほぼ一気観しました……最高。アニメーション制作は〈fate〉のufotable。いわゆる努力する少年主人公の物語であり、吸血鬼譚のヴァリアントであり、また『るろうに剣心』や『無限の住人』に連なるネオ時代劇でもある作品。この「努力する少…

さらざんまい

『輪るピングドラム』より8年、そして『ユリ熊嵐』より4年、ようやく公開された幾原邦彦監督の新作『さらざんまい』を、先日観終わった。「カッパにされた少年たちが、カッパゾンビの尻子玉を抜きにいく」というのが粗筋。それだけでは意味がわからない……と…

アイリッシュマン

マーティン・スコセッシ監督作品は『タクシードライバー』と『ギャング・オブ・ニューヨーク』ぐらいで、ほとんど観てきていない。これからちゃんと観ねばと反省。それはそれとして『アイリッシュマン』。ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペ…

カミーユ・アンロ『蛇を踏む』

東京オペラシティアートギャラリーで催されている、カミーユ・アンロの『蛇を踏む』へ。タイトルは川上弘美の同名作より。古今東西の小説を生け花に仕立てる〈革命家でありながら花を愛することは可能か〉(マルセル・リーブマンによるレーニン伝の一節より…

ジョーカー

今回のエントリはネタバレを含みます。 大ヒットで超話題になっている本作『ジョーカー』。観に行くのが遅れてしまい、色々な情報が先にインプットされてしまっており。特に「信頼できない語り手の物語」であることを事前に聞いていたため、アーサー(ホアキ…

2019年10月までの読んだ本短評まとめ

読書メーターを開いて確認したら、読んだ本の記録をまったくこちら(ヨンマルマル)に取っていなくて震えています。粛々と転記します。真藤順丈『宝島』(講談社)2019年1月2日読了日本人(ヤマトンチュ)である自分はこの壮大かつ不屈の沖縄人(ウチナンチ…

2019年10月までの観劇まとめ

演劇鑑賞も未記録だったので、ここでまとめて。『ミュージカル レ・ミゼラブル』2019年4月20日鑑賞(帝国劇場)生オーケストラのミュージカル初鑑賞。「民衆の歌」が頭から離れず。水道のように泣いた。[公演情報]作 アラン・ブーブリル&クロード=ミッシ…

2019年7月から9月までの映画100字短評まとめ

自分に対する懺悔以外なにものでも無いのですが、夏以降の観た映画の感想もヨンマルマルにまとめきれず……。6月と10月は鑑賞無しです。今後は観たらすぐに(その日のうちに)書くようルーチン化したい、などと思いつつ。『ミツバチのささやき』2019年8月5日鑑…

凪のお暇

とにかく登場キャラ全員が尊い、愛に溢れたワンクールだった。『凪のお暇』はコナリミサトの漫画が原作のTBSテレビドラマ。放映は2019年7月クール。空気読みすぎ女子の大島凪(黒木華)がモラハラ彼氏(高橋一生)と別れてボロアパートに転がり込むが、そこ…

飼育

大江健三郎『飼育』を、カンボジア人監督のリティ・パンが翻案した映画作品。原作は太平洋戦争終了直前の日本の物語だが、本作は1970年代の内戦下にあったカンボジアを舞台に描かれる。リティ・パン監督は、自身が内戦の経験者でもある。 原作未読なので比較…

2019年3月から6月までの映画100字短評まとめ

2月のエントリに引き続いて、バタバタの所為で個別エントリが書けず……反省。Filmarksからの転記まとめと補足になります。下半期は頑張りたい……。『天国でまた会おう』2019年3月8日鑑賞罪人と大人と孤独な子どもの組み合わせが大好物なので満腹満足。擬古的な…

スパイダーマン:スパイダーバース

スパイダーマンのことはよく知らない。マーベル作品も全然観ていない。ただトレーラーがとっても魅力的だったのと、アカデミー賞の長編アニメ映画賞ということで、なんとなく足を運んだだけ。結果、度肝を百回ほど撃ち抜かれた上に、後半はずっと泣きじゃく…

バーニング

村上春樹の短編が原作というのが足を運んだきっかけ。しかし当該短篇「納屋を焼く」は未読、村上春樹という言葉にまんまと釣られた形だった。結果、イ・チャンドンという凄まじい監督を知れて良かったのだけれども。 ストーリーは『グレート・ギャッツビー』…

ペパーミント・キャンディー

イ・チャンドン監督の『バーニング』がヒットのため、過去作である『ペパーミント・キャンディー』と『オアシス』がアップリンク渋谷でリバイバル上映。『バーニング』ですっかりハートを持っていかれたため、取り急ぎ鑑賞した。 本作は人生にドン詰まった男…

2018年12月から2019年2月までの映画100字短評まとめ

このヨンマルマルは、映画&小説&演劇の感想を400字でまとめてログしていこうという試みなのですが、昨年後半から仕事関係のバタバタが続いていて、まともに書けていないものが溜まってしまっておりまして……。いつまで経っても清書ができそうになく……いたし…

サスペリア

仕事関係の人から熱烈なプレゼンを受けて急遽鑑賞。有名なホラー映画のリメイクということすら知らず、何の予備知識も無いまま観た所為で「インパクトは強いけれど主題がよく理解できない……」となった。しかし、町山智浩氏の解説動画を観ていろいろ氷解。 ネ…

三人の夫

恐らく精神に何らかの障害を持つと思しき女性が、生きていくために身体を売る。そして、彼女の稼ぎに三人の「夫」を称する男たちがたかる。彼らは香港の陸地に家を持てない、貧しい船上生活者。人魚のように水の上で日々を送る……。東京国際映画祭で鑑賞、フ…

女の一生

新劇、というらしい。そんなことも知らないで観たのかと言われそうだが、そんなことも知らないで観ました。明治の終わり、日露戦争の旅順陥落の日に拾われた少女が、やがて女実業家として身を起こしていくが、愛する人とは一緒になれず、後に連れ添った旦那…

誤解

アルベール・カミュ原作。稲葉賀恵演出。帰郷した放浪息子が、母と妹に「誤解」から殺されてしまう物語。 カミュ自身の代名詞ともなっている「不条理」とはどういう意味なのだろうか。日本国語大辞典「不条理の哲学」の項目では、カミュの思想とした上で「意…

チルドレン

メルトダウンした原発というカタストロフに直面した、たった三人の登場人物によるシンプルなお芝居。ルーシー・カークウッド作、演出は栗山民也。栗山演出は1月に『アンチゴーヌ』を観ていて。観劇初心者の自分には言語化するのが難しいのだけれど、頭のど…

シェイプ・オブ・ウォーター

異類婚姻譚。あるいはマイノリティの寓話。想像していたよりストレートでシンプルな物語だった。感動したか? と問われると、答えるのはとても難しい。おそらく自分には「マイノリティが抱える性愛の問題、生活の問題」に対する想像力が圧倒的に足りないのだ…