ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

飼育

 大江健三郎『飼育』を、カンボジア人監督のリティ・パンが翻案した映画作品。原作は太平洋戦争終了直前の日本の物語だが、本作は1970年代の内戦下にあったカンボジアを舞台に描かれる。リティ・パン監督は、自身が内戦の経験者でもある。
 原作未読なので比較できないが、戦争捕虜が民間人の村人(中でも少年たち)に「飼育」されるという筋立ては同じのようだ。より精確に表現すれば、ロン・ノル軍に協力する米軍爆撃機が墜落し、乗組員の黒人兵士がクメール・ルージュ勢力圏内にある村落で囚われる、という構図となる。目を引くのは、少年たちの捕虜に対する無邪気な振る舞いが、凄まじい残酷さへ直接繋がるところ。かつ、彼らは正義の執行者であると信じているところ。視点を変えると、これは『スタンド・バイ・ミー』と何が違うんだという気持ちになる。戦争が青春的な美しさに見えてしまうところが、真の恐ろしさではないか……そんなことを考えた。(四〇〇)(2019年7月9日鑑賞)
[スタッフ]
監督 リティ・パン