ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

一億総中流という虚構が崩れた未来の片隅で/あのこは貴族

 コロナ渦以降、しばしばテーマになっている「分断」という言葉。そうした流れを意識したのかそうでないのかはわからないが、本作も分断や対立を題材にしている。しかし評価されるべきは、その先に見える可能性を描いていることだと思う。
 医者の娘の華子(門脇麦)は貴族。華子の婚約者になる航一郎(高良健吾)はさらにガチ貴族。地方出身で家庭の事情から大学を中退した美紀(水原希子)は平民。ちなみに美紀は航一郎にとって都合の良い女である。美しいドラマチカル・トライアングル。
 少し前のドラマであれば、ドロドロの愛憎劇か『巌窟王』ばりの復讐劇になっていただろう。ただ、この作品は違った。分断や対立や偏見や蔑視では、誰も幸せになれないことを示した。平民はおろか、貴族さえも。
 綺麗事かもしれないが、人間ができることって結局、様々な温度や強度で手を取り合うことだけなのではないか。ラストシーンから、そんな感慨を持った。(四〇〇字)

スタッフ
監督・脚本/岨手由貴子
原作/山内マリコ

キャスト
「世間知らずの箱入り」をこれでもかと具象/門脇麦
地方の実家の描写がリアルすぎてジャージが素敵/水原希子
完璧ハイスペイケメンなのに全く幸せそうに見えない/高良健吾
「第三の女」にして良きトリックスター/石橋静河
こういう友達にいちばん居てほしい/山下リオ

ケルナグール1989/アトミック・ブロンド

 近接戦闘が鬼強のセロンさまによるステゴロエンターテインメント……! とはいえ、いわゆるスーパーパワー系のヒーロー無双ではなくて、ガンアクションも要点のみで、ひたすらリアルさ(あくまで、っぽさだとは思いますが)重視の、殴る蹴る怒突き回す叩きのめす、流血バシャバシャで青タンどんとこいのファイトは、ほんと圧巻でした。
 作品の背景になっているのは、一九八九年のベルリンの壁崩壊と冷戦の幕引き。だからスマホはおろかインターネットすらなく、盗聴も盗撮もアナログなのが良い味出してます。クラブでパブリック・エナミーの「ファイト・ザ・パワー」が流れているのも素敵。そうそう、劇中のテレビニュースで「ベルリンの壁崩壊というビッグニュースの後は、音楽におけるビッグトピック、サンプリング問題!」みたいなのやってまして。あれかな、各国情報をサンプリングするエージェント=ダブルスパイ、の暗喩だったのかな。考えすぎかな。(四〇〇字)

スタッフ
監督/デヴィッド・リーチ
脚本/カート・ジョンスタッド
原作/アンソニー・ジョンストン&サム・ハート「The Coldest City」

キャスト
金髪ステゴロナンバーワン/シャーリーズ・セロン
「俺はベルリンを愛してる!」/ジェームズ・マカヴォイ
詩人かロックスターになりたかった/ソフィア・ブテラ
「スパイグラス」と呼ぶのはどうなの/エディ・マーサン

(きっと)思春期のまち/街の上で

 下北沢の古着屋でバイトしたかったんです。シモキタに住んで、バイトして、飲んで笑って彼女を見つけて……。そういう生活に死ぬほど憧れていた時期があります。十五年以上むかしのことです。
 主人公、若葉竜也演じる荒川青は十五年前の理想像そのもので。最初はちょっと完璧すぎて嫌になるぐらいで。でも物語が、青と四人の「下北沢の女」との別れやら出会いを巡ってゆっくり進んでいく中で、どんどん引き込まれて。
 特筆すべきは四人の中のひとり、城定イハ(中田青渚)でしょう。都合良さげな年下女子と見せかけて、毒っ気たっぷり&秘密もいっぱい。けれど本音トークしかしない潔さもある不思議な魅力のキャラクターに仕上がってました。いちばん「下北沢の女」っぽかったかも。
 イハにも出会えず、青にもなれない我が人生。それでも「下北沢の街に憧れた時期を忘れたり誤魔化したりすんなよ」と、訥々とスクリーンから語りかけられた心持ちでいます。(四〇〇字)

スタッフ
監督/今泉力哉
脚本/今泉力哉、大橋裕之
音楽/入江陽

キャスト
古着屋勤務の主人公、余計なことを最悪のタイミングで言う/若葉竜也(荒川青)
青の元彼女、一番考えていることが読みづらかったです/穂志もえか(川瀬雪)
古本屋勤務、一番良い人だったんじゃないかと/古川琴音(田辺冬子)
学生映画の監督、一番自分のことを考えている/萩原みのり(高橋町子)
学生映画の助手、一番普通で一番素直で一番タチが悪い/中田青渚(城定イハ)
友情出演/成田凌(間宮武)