ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

一億総中流という虚構が崩れた未来の片隅で/あのこは貴族

 コロナ渦以降、しばしばテーマになっている「分断」という言葉。そうした流れを意識したのかそうでないのかはわからないが、本作も分断や対立を題材にしている。しかし評価されるべきは、その先に見える可能性を描いていることだと思う。
 医者の娘の華子(門脇麦)は貴族。華子の婚約者になる航一郎(高良健吾)はさらにガチ貴族。地方出身で家庭の事情から大学を中退した美紀(水原希子)は平民。ちなみに美紀は航一郎にとって都合の良い女である。美しいドラマチカル・トライアングル。
 少し前のドラマであれば、ドロドロの愛憎劇か『巌窟王』ばりの復讐劇になっていただろう。ただ、この作品は違った。分断や対立や偏見や蔑視では、誰も幸せになれないことを示した。平民はおろか、貴族さえも。
 綺麗事かもしれないが、人間ができることって結局、様々な温度や強度で手を取り合うことだけなのではないか。ラストシーンから、そんな感慨を持った。(四〇〇字)

スタッフ
監督・脚本/岨手由貴子
原作/山内マリコ

キャスト
「世間知らずの箱入り」をこれでもかと具象/門脇麦
地方の実家の描写がリアルすぎてジャージが素敵/水原希子
完璧ハイスペイケメンなのに全く幸せそうに見えない/高良健吾
「第三の女」にして良きトリックスター/石橋静河
こういう友達にいちばん居てほしい/山下リオ