ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

2018-01-01から1年間の記事一覧

三人の夫

恐らく精神に何らかの障害を持つと思しき女性が、生きていくために身体を売る。そして、彼女の稼ぎに三人の「夫」を称する男たちがたかる。彼らは香港の陸地に家を持てない、貧しい船上生活者。人魚のように水の上で日々を送る……。東京国際映画祭で鑑賞、フ…

女の一生

新劇、というらしい。そんなことも知らないで観たのかと言われそうだが、そんなことも知らないで観ました。明治の終わり、日露戦争の旅順陥落の日に拾われた少女が、やがて女実業家として身を起こしていくが、愛する人とは一緒になれず、後に連れ添った旦那…

誤解

アルベール・カミュ原作。稲葉賀恵演出。帰郷した放浪息子が、母と妹に「誤解」から殺されてしまう物語。 カミュ自身の代名詞ともなっている「不条理」とはどういう意味なのだろうか。日本国語大辞典「不条理の哲学」の項目では、カミュの思想とした上で「意…

チルドレン

メルトダウンした原発というカタストロフに直面した、たった三人の登場人物によるシンプルなお芝居。ルーシー・カークウッド作、演出は栗山民也。栗山演出は1月に『アンチゴーヌ』を観ていて。観劇初心者の自分には言語化するのが難しいのだけれど、頭のど…

シェイプ・オブ・ウォーター

異類婚姻譚。あるいはマイノリティの寓話。想像していたよりストレートでシンプルな物語だった。感動したか? と問われると、答えるのはとても難しい。おそらく自分には「マイノリティが抱える性愛の問題、生活の問題」に対する想像力が圧倒的に足りないのだ…

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

2016年に本作を映画化した『裏切りのサーカス』を観ている。正直、ストーリーがほぼほぼ理解できなかったと記憶している。その後、仕事の関係で「キム・フィルビー事件」を頭に叩き込まねばならない状況になり、ようやく全体の概要が掴めた。英国情報部〈ケ…

沖縄スパイ戦史

沖縄戦において、徴兵前の就学児童が兵卒として動員された歴史があった。「護郷隊」と呼ばれたそれは、陸軍中野学校の情報将校によって指揮された。少年兵だ。本作は、かつて護郷隊であった人々の中で、まだご存命である方へインタビューを行ない、そこで得…

タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜

ポスターのソン・ガンホさんの笑顔に騙されてはいけない、これはタクシー漫談ではない。仕事の関係で薦められてユジク阿佐ヶ谷にて。1980年に韓国で起きた光州事件という民主化弾圧と虐殺事件、その実態を取材しようとしたドイツ人記者(トーマス・グレッチ…

カメラを止めるな!

ライムスターの宇多丸さんが誉め、伊集院光氏もラジオで激賞。「観に行かないという選択肢がない」という謎のプレッシャーに駆られ、公開劇場が増えたタイミングでTOHOシネマズ新宿にて。 とにかく「映画が好き」という愛に溢れ返った作品だった。撮るのも観…

寒い国から帰ってきたスパイ

ル・カレ初読。007をはじめとしたスパイもののプロットの教科書のような作品だった。・汚名をそそぐために頑張る主人公・日常世界を象徴するヒロインとのロマンス・ライバルとの友情・拷問・愛と死 箇条書きすると、以上のような。 21世紀に読むと斬新…

万引き家族

何が凄いって「万引きなどしなくても生きていける」家族を描いていること。観終わって、感想漁りをしているときにそのことを教えられて「うわああ」となりました。「万引きしないと生きていけない貧困層」の物語ではない。だからこそ余計に、苦しい、醜い、…

未来のミライ

シンプルにつまらなかった、というのが最大の感想だ。ものすごくわがままな四歳児が主人公の、ややファンタジー風味がまぶされたホームビデオ。他所のご家庭の育児に興味は持てなかった……。 本作を観て考えたのは、自分は映画館で何を観たいのだろうか、とい…

彼女がその名を知らない鳥たち

蒼井優がクズ女を演じ、相手役を阿部サダヲが務める。それだけで観たかった作品。 期待は裏切られず。生臭くて温かい、腐臭がプンプン漂う映画だった。 綺麗、美しい、カッコいい。他人に自慢できる何かに囲まれて生きていたい、などと考えるのが人間の性。…

勝手にふるえてろ

宇多丸さんが絶賛していたので観ました。ので、ちょっとハードル上げ過ぎて鑑賞してしまったかも。原作は綿矢りさの小説。 前半のイタさ前回妄想女の松岡茉優は最高。なんてものを見せられているのかと。凄まじいなこれはと。自分の汚物を柵のこちら側へ放り…

九州・博多

ヨンマルマルの更新をするのは、ほぼ半年振りになる。いったん、諸々リセットしようかとも考えたけれど、空白期間があるというのも1つのログではあるので、このまま続行。久々の更新は、いつもの映画や小説の感想ではなくて、先週出張で訪れた街の感想を。 …

ジーザス・クライスト・スーパースター

10代前半の頃にテレビで放送していたのを見た記憶があった。しかし、観直してみたら全く内容を憶えていなくてびっくり。 ジーザス・クライストとは何者か、彼は何を為したかったのか。この2つを問う作品。作中で回答が示されるわけではない。むしろ、こうい…

レ・ミゼラブル

母が『ああ無情』を好きだった。しかし、それがどのバージョンの『レ・ミゼラブル』なのか、もはや記憶が定かでない。今回は2012年版のミュージカル映画について。 大革命後、19世紀のフランス・パリはこんなに貧しかったのか! という印象がエンディングま…

JAGAT

カンボジア映画の『ダイヤモンド・アイランド』に続き、東京外大の上映イベントで観たマレーシア映画『JAGAT/世界の残酷』。1990年代初頭、マレー半島の貧しいタミル語コミュニティで育つ小学生の少年と彼の父母、そしてギャングになった叔父とジャンキーに…

アンチゴーヌ

新年最初のエントリは観劇から。映画に比べてハードルが高いので敬遠しがちだったけれど、昨年、ただ「黒木華が生で観たい」というだけで行った『お勢登場』が滅法面白くミーハーな欲求も満たされたので、調子に乗って2度目へ。今回のお目当ては主演の蒼井…