ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

岬の兄妹②

岬の兄妹① - ヨンマルマル
 リアリティ。『ジョーカー』『パラサイト』あるいは『バーニング』など、貧困と極限をテーマにした映画を、昨年から今年に掛けて少ならからず観た。それぞれにそれぞれのリアリティ演出があり、甲乙はつけがたい。ただ『岬の兄妹』は、徹底してカメラの目線が低い(物理的ではなく、心理的な意味で)ように感じる。決して美しくはない食事、当然美しいはずもない排泄がスクリーンに映る。性交シーンも汚い。これらの美しくなさ、汚さが、独自のリアリティを獲得させている。
 そして汚いということは、普通であることなのだ。兄妹は何か特別なことが為したかったわけではない。しかし普通で在りたいと希うことは、代償としての宿業を孕んでしまう。本作は社会の批判や風刺を試みたわけではなく、人間が本来的に持つ哀しい業を描いたものであるように思う。だからこそ、私はその生々しい有り様を直視できない。私も普通で在りたいと浅ましく希う者であるから。(400字)

[スタッフ&キャスト]
監督・脚本 片山慎三
主演 道原良夫(兄)/松浦祐也
道原真理子(妹)/和田光沙