ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

岬の兄妹①

 クソみたいなクソのお話……と単純に断じることはできなかった。貧困の中で自閉症の妹に売春をさせる実の兄を描く映画。「人としてどうなんだ!」という罵声は作中でも浴びせられる。確かに道義にはもとる、あまりに酷すぎる、妹を売る前に自分がなんとかして稼げ……などなど、様々な言葉が脳裏をよぎった。しかしそれらはすべて、この兄妹を私とは遠いもの、異なるものとして、遠ざけて安心する言葉であるように思う。
 作中で映し出される地方都市。仕事はなく、町はうらぶれ、くすんだ空気が充満している。私自身も、五十歩百歩の似たような町で育った。軽度の貧困はすぐ側にあったし、10代のときにあそこから必死で脱出する手段を得られなければ、確実に囚われていただろう。だから全くもって他人事ではない。けれども他人事にしたい、直視するのがあまりに怖いから。そんな感情を激しく掻き立てられる作品だった。圧倒的なリアリティゆえ、だろうか。(岬の兄妹② - ヨンマルマル)(400字)