ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

熱源

 第162回直木賞受賞作。サハリン・アイヌという民族が、日本国における明治から昭和にかけて辿った軌跡を追う歴史小説。第160回の直木賞受賞作であり、戦後沖縄の混乱と渾沌を描いた『宝島』と対を為すような作品だというのが、率直な感想です。ただ両作では、いくつかの点が決定的に異なっています。
 近代日本に翻弄され、凄まじい辛苦の道を歩んだという意味で、アイヌと沖縄の人々に共通する部分はあります。しかしそもそも、アイヌの人々は琉球王国のようなまとまりを持っていませんでした。サハリンは「無主」の土地だったわけですから。ここが最大の相違点と言えます。そして、無いところに無理矢理まとまり的なものを押しつけられていく。一体、近代的人間というのは、自らの正しさをどこまで傲慢に押しつけるのかと、読んでいて暗澹たる気持ちになりました。
 さて。我々は本作に描かれる愚かしさから、どれほど進歩できているのでしょうか。(400字)

【第162回 直木賞受賞作】熱源

【第162回 直木賞受賞作】熱源

  • 作者:川越 宗一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: 単行本