ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

2016年に本作を映画化した『裏切りのサーカス』を観ている。正直、ストーリーがほぼほぼ理解できなかったと記憶している。その後、仕事の関係で「キム・フィルビー事件」を頭に叩き込まねばならない状況になり、ようやく全体の概要が掴めた。英国情報部〈ケ…

沖縄スパイ戦史

沖縄戦において、徴兵前の就学児童が兵卒として動員された歴史があった。「護郷隊」と呼ばれたそれは、陸軍中野学校の情報将校によって指揮された。少年兵だ。本作は、かつて護郷隊であった人々の中で、まだご存命である方へインタビューを行ない、そこで得…

タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜

ポスターのソン・ガンホさんの笑顔に騙されてはいけない、これはタクシー漫談ではない。仕事の関係で薦められてユジク阿佐ヶ谷にて。1980年に韓国で起きた光州事件という民主化弾圧と虐殺事件、その実態を取材しようとしたドイツ人記者(トーマス・グレッチ…

カメラを止めるな!

ライムスターの宇多丸さんが誉め、伊集院光氏もラジオで激賞。「観に行かないという選択肢がない」という謎のプレッシャーに駆られ、公開劇場が増えたタイミングでTOHOシネマズ新宿にて。 とにかく「映画が好き」という愛に溢れ返った作品だった。撮るのも観…

寒い国から帰ってきたスパイ

ル・カレ初読。007をはじめとしたスパイもののプロットの教科書のような作品だった。・汚名をそそぐために頑張る主人公・日常世界を象徴するヒロインとのロマンス・ライバルとの友情・拷問・愛と死 箇条書きすると、以上のような。 21世紀に読むと斬新…

万引き家族

何が凄いって「万引きなどしなくても生きていける」家族を描いていること。観終わって、感想漁りをしているときにそのことを教えられて「うわああ」となりました。「万引きしないと生きていけない貧困層」の物語ではない。だからこそ余計に、苦しい、醜い、…

未来のミライ

シンプルにつまらなかった、というのが最大の感想だ。ものすごくわがままな四歳児が主人公の、ややファンタジー風味がまぶされたホームビデオ。他所のご家庭の育児に興味は持てなかった……。 本作を観て考えたのは、自分は映画館で何を観たいのだろうか、とい…

彼女がその名を知らない鳥たち

蒼井優がクズ女を演じ、相手役を阿部サダヲが務める。それだけで観たかった作品。 期待は裏切られず。生臭くて温かい、腐臭がプンプン漂う映画だった。 綺麗、美しい、カッコいい。他人に自慢できる何かに囲まれて生きていたい、などと考えるのが人間の性。…

勝手にふるえてろ

宇多丸さんが絶賛していたので観ました。ので、ちょっとハードル上げ過ぎて鑑賞してしまったかも。原作は綿矢りさの小説。 前半のイタさ前回妄想女の松岡茉優は最高。なんてものを見せられているのかと。凄まじいなこれはと。自分の汚物を柵のこちら側へ放り…

九州・博多

ヨンマルマルの更新をするのは、ほぼ半年振りになる。いったん、諸々リセットしようかとも考えたけれど、空白期間があるというのも1つのログではあるので、このまま続行。久々の更新は、いつもの映画や小説の感想ではなくて、先週出張で訪れた街の感想を。 …

ジーザス・クライスト・スーパースター

10代前半の頃にテレビで放送していたのを見た記憶があった。しかし、観直してみたら全く内容を憶えていなくてびっくり。 ジーザス・クライストとは何者か、彼は何を為したかったのか。この2つを問う作品。作中で回答が示されるわけではない。むしろ、こうい…

レ・ミゼラブル

母が『ああ無情』を好きだった。しかし、それがどのバージョンの『レ・ミゼラブル』なのか、もはや記憶が定かでない。今回は2012年版のミュージカル映画について。 大革命後、19世紀のフランス・パリはこんなに貧しかったのか! という印象がエンディングま…

JAGAT

カンボジア映画の『ダイヤモンド・アイランド』に続き、東京外大の上映イベントで観たマレーシア映画『JAGAT/世界の残酷』。1990年代初頭、マレー半島の貧しいタミル語コミュニティで育つ小学生の少年と彼の父母、そしてギャングになった叔父とジャンキーに…

アンチゴーヌ

新年最初のエントリは観劇から。映画に比べてハードルが高いので敬遠しがちだったけれど、昨年、ただ「黒木華が生で観たい」というだけで行った『お勢登場』が滅法面白くミーハーな欲求も満たされたので、調子に乗って2度目へ。今回のお目当ては主演の蒼井…

ダイヤモンド・アイランド

東京外大の東南アジア映画特集にて鑑賞。ひとことで内容を言えば「上京物語」だ。カンボジアの首都プノンペン、その再開発地区の建設現場に農村から出てきて働く主人公が、行方不明の兄と再会したり、恋に落ちたりした後で、青春の蹉跌を味わう、そんなお話…

ブレードランナー2049

1980年代生まれのため、前作のリドリー・スコットのブレランに思い入れが無い、すみません。ただブレランに影響を受けたコンテンツには、たくさん親しんできたように思う。攻殻機動隊とか、ロックマンXとか。もし前作に思い入れがあれば、見方はもっと違っ…

HiGH&LOW THE MOVIE3 / FINAL MISSION

昨年からハイローユニバースを楽しませて頂き、ザム1→レッレ→ザム2と、劇場版を心から堪能させて頂いた。いや、今もなお楽しんでいる。だからこそ言いたい、副題の「FINAL」ってなんやったんやと。……まあ仕方がないです、九龍グループがザム3だけで壊滅し…

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。

ダン・シモンズの『サマー・オブ・ナイト』という作品がある(惜しむらくは既に絶版)。アメリカの田舎町を襲う怪異、立ち向かう少年少女たち……と、大まかな流れはほぼ一緒。シモンズの同作をこよなく愛する自分にとって、今回の『IT』も同じぐらい愛せる作…

カンボジア若手短編集

東京国際映画祭にて。ホームレスの親子を撮った『ABCなんて知らない』、クメール・ルージュ時代に強制結婚させられた夫婦を描いた『三輪』、農村と近親相姦がテーマの『赤インク』、金に翻弄される女性の実験作品『20ドル』の計四本立て。 明らかに自分はカ…

スヴェタ

東京国際映画祭にて。カザフスタンの女性監督の作品。聴覚障害者の子持ち女性スヴェタが職場を解雇されて住居を追い出されそうになったため、殺人を犯して金を手に入れて、生き延びていくお話。 しんどい。吃驚するぐらいしんどい。まず手話で会話が進行する…

Ank: a mirroring ape

SFやファンタジーといった作品を強烈に定義するのは単語だ、神は細部に宿る。だから「京都暴動(キョウト・ライオット)」という言葉を創造した時点で、この作品は勝利している。京都という語と暴動という語の取り合わせの悪さ、ゾクゾクする違和感、素晴ら…

新版 女興行師 吉本せい

手に取った直接のきっかけは2017年10月現在放映中の『わろてんか』だが、吉本せいについてはずっと気になっていた。だからこの一代記、ようやく読めて良かった。 ヨシモトと言えば吉本新喜劇である関西出身の自分にとっては、その吉本が第二文藝館という場末…

日の名残り

カズオ・イシグロさん、ノーベル文学賞受賞おめでとうございます。 その流れで本作を鑑賞しました。 ……明るい映画では無い。むしろ暗い。そして辛い。歴史映画とも言えるが、まあ失恋映画というのが正しい。とある英国貴族が世界大戦の戦間期に迎えた苦難、…

異人たちとの夏

『廃市』と並んで観たいと思っていた大林宣彦監督作品をようやく。40代の主人公(風間杜夫)が10代のときに死別した30代の父母(片岡鶴太郎と秋吉久美子)と再会するという、ノスタルジックさとファンタジー感溢れる一本。……と、それは良いのです、孤独な男…

Fate/stay night Heaven’s Feel Ⅰ. presage flower

結局、Fate本篇のゲームは一度もプレイせず、全てアニメで楽しんできた。惜しいことをしたな、とも思う。Wikiを見ると「初版」の発売は2004年。2017年現在から溯ると13年前。ディーン版のUBWは2006年でufotable版のUBWは2014年と2015年、それぞれ公開されて…

君の膵臓が食べたい

こういう小説がベストセラーになる世界で、本当に良かった。元気が出る。 難病御涙頂戴系の小説、ではない。まあそんな小説のジャンルがあるのかどうか、知らんけれども。とある男の子が、自分と他人と向き合って生きていくお話。恋愛小説ですら(きっと)な…

怒り

原作を読了して約半年後の鑑賞、とてつもない完成度での無駄のない映像化だった。 原作でも映画でも、好きだったのは渡辺謙と宮崎あおいの親子。房総南部の鄙びた漁港に暮らすふたりは、何故だか強く印象に残った(そこに池脇千鶴が入ってくるのも憎いキャス…

カサブランカ

第二次世界大戦下、モロッコ。ナチスから逃れてアメリカへ渡ろうとする人たちの物語。タイトルと有名な劇中のセリフだけは聞いたことがあったが、完全に初見。お芝居、セリフ、全てがとても時代がかっている。それをわざとらしく不自然に感じる……のはきっと…

HIGH&LOW THE MOVIE2 END OF SKY

ハイローが在って良かった。ハイローが観れる世界線に生きていて良かった。 2016年秋頃。きっかけは「山王連合会や鬼耶高校はまだヤンキー漫画の延長線として理解できるが、RUDE BOYSみたいな複雑な世界観もったチームまで存在するSWORD地区やばい。ゆえにハ…

ダンケルク

小島秀夫監督の映画評(要約「セリフがほとんどない。ただ逃げるだけの映画。そのシンプルな構成ゆえに素晴らしい」)を読んで、慌てて予約をして公開当日に鑑賞。IMAXで観たが、それに相応しい大作だった。 戦争は怖い。テキストで、映像で、そのことは教え…