ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

発酵した暗黒/『鵞鳥湖の夜』

 逃げる男と、ついてくる謎の女。関係性と緊張感だけで何杯も呑める良作。貧困の情景も地方の倦怠も暴力的な混沌も、すべて良かった……。
 警官を誤射して指名手配された犯罪組織の男、つきまとう水浴嬢(遊泳中に売春する娼婦)の女、ふたりを追う警察(見た目はヤクザ)と対立組織、辿り着いたのは中国南部、鵞鳥湖という観光地(?)がある、どん詰まった地方都市。
 ストーリーはシンプルでセリフ数も多くないので、キャストの(良い意味で)くたびれた演技と、疲れ切った街の空気を存分に楽しめる作品だ。盗難バイク、改造拳銃、光るスニーカーで踊る屋外ダンス場、見世物小屋、労働者集会などなど。ハリウッドのクライムアクションやフランスの犯罪映画のような、カッコ良いものなど何ひとつとして出てこないのに、なぜか「すごく良い……」と感じてしまう不思議さ。あとはメシを食らう場面が、とにかく汚くて生命力に溢れてて素敵。特にキュウリと麺。(四〇〇字)

[スタッフ]
監督/脚本 ディアオ・イーナン

[キャスト]
チョウ(阿部寛に似てる逃亡犯)/フー・ゴー
アイアイ(水着が斬新な水浴場)/グイ・ルンメイ

※付記
原題は『南方車站的聚會』で「南の駅での集会」的な意味になる。これは指名手配犯のチョウを追って南の駅(鵞鳥湖のある街の駅)に、警察やら組織やらが集まってくるの指すのだろうか。英題は『The Wild Goose Lake』で鵞鳥湖そのまま、シンプル。で、邦題の『鵞鳥湖の夜』も趣きがあって良いなあと思う。夜だけの話ではないけど、全体のイメージは昏い夜であるし、本篇も夜にはじまり夜に終わるし。