ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。

 ダン・シモンズの『サマー・オブ・ナイト』という作品がある(惜しむらくは既に絶版)。アメリカの田舎町を襲う怪異、立ち向かう少年少女たち……と、大まかな流れはほぼ一緒。シモンズの同作をこよなく愛する自分にとって、今回の『IT』も同じぐらい愛せる作品だった!
 まずモンスターvsボーイズ&ガールズというプロットが黄金すぎる。御飯を何杯でも食べられる。しかもその主人公たちが「ルーザーズ・クラブ」と自称するぐらい、最初はカッコ悪いいじめられっ子たちなのだから、余計に彼ら彼女らの成長のドラマが映える。男子5人に女子1人というメンバー構成も尊い。そのヒロイン、べバリー(ソフィア・リリス)は洋の東西を問わない男子諸兄の妄想の具現なのではと思えるぐらいキュートだ。
 原作では50年代末の話が、今回の映画では88年に。自分もちょうど小学生ぐらいだったので、だからこその強烈な親近感も、あったのかもしれないなあ。(四〇〇) 

カンボジア若手短編集

 東京国際映画祭にて。ホームレスの親子を撮った『ABCなんて知らない』、クメール・ルージュ時代に強制結婚させられた夫婦を描いた『三輪』、農村と近親相姦がテーマの『赤インク』、金に翻弄される女性の実験作品『20ドル』の計四本立て。
 明らかに自分はカンボジアの映像表現のレベルを舐めていて、本当に失礼いたしました。どの作品も画作りが丁寧で美しいのだけれど、出色は『赤インク』。他三作が首都プノンペンを舞台にしてしたのに対して、同作だけは都市を離れた地方の農村、その田園風景が精緻に映し取られていた。光が本当に素晴らしい。自然光が生み出すシーンは、奇跡みたいなものだ。
 不満があるとすれば、キャストの演技だろうか。ドキュメンタリー的な作品は別として、明らかなフィクション作品に関しては、もうちょっと頑張ってほしいなあと。そして演者が補完されれば、次の瞬間から普通に世界へ通用するレベルに跳ね上がるだろう。(四〇〇)

http://2017.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=175

スヴェタ

 東京国際映画祭にて。カザフスタンの女性監督の作品。聴覚障害者の子持ち女性スヴェタが職場を解雇されて住居を追い出されそうになったため、殺人を犯して金を手に入れて、生き延びていくお話。
 しんどい。吃驚するぐらいしんどい。まず手話で会話が進行するので音が少なく、かつBGMもほとんど入らないので緊張感がすごい。また、何も起こらない長回しのシーンが複数出てくる。それが余計に緊張を増す効果になっている。更に出演しているのは本物の聴覚障害者だ(後でわかったことだが)。リアリティではなくて剥き出しのリアルだった。面白かったのか、面白くなかったのか、それすらよくわからない。
 特筆すべきことがひとつ。スヴェタが老女殺しを宣言したとき、会場から笑いが起きた。きっとみな、緊張に耐えられなかったのだと思う。その笑いが起きたときは、この会場の人々が作品をコメディとして捉えているのかと勘違いし、愕然としたけれども。(四〇〇)

http://2017.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=27