ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

君の膵臓が食べたい

 こういう小説がベストセラーになる世界で、本当に良かった。元気が出る。
 難病御涙頂戴系の小説、ではない。まあそんな小説のジャンルがあるのかどうか、知らんけれども。とある男の子が、自分と他人と向き合って生きていくお話。恋愛小説ですら(きっと)ないのだろう。本作の一番好ましいところは、主人公とヒロインの毒舌交じりの掛け合い。これはもう「こういう会話を誰かとしたい!」という会話そのものだ。異性(あるいは想いを寄せる同性を含む)で無くてもいいぐらい、かもしれない。意味なんてまるでない言葉を交わし合い、じゃれ合い、少しだけ傷つけ合い、そして大声で笑い飛ばされたいのだ、誰しもが、きっと。
 ある意味では、とても小さな物語世界である。時間的にも空間的にも関係性的にも。けれどももちろん、物語の世界は無闇に広ければ良いわけでもない。小さな世界の中での、灯火のようなリアリティもきっと、ものすごく大事なことだ。(400字)

 

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

 

 

 

怒り

 原作を読了して約半年後の鑑賞、とてつもない完成度での無駄のない映像化だった。
 原作でも映画でも、好きだったのは渡辺謙宮崎あおいの親子。房総南部の鄙びた漁港に暮らすふたりは、何故だか強く印象に残った(そこに池脇千鶴が入ってくるのも憎いキャスティングだ)。描かれた3つの視点の中で、最もリアリティがあったというのはもちろんなのだけれど、「幸福」そのものに焦がれ続ける親と娘、というキャラクターに哀感を覚えてしまったのだ。歌舞伎町から特急電車で娘を連れ戻す父親、というシーンにも強く持っていかれるものがある。何だろう、言語化が難しいけれど、郷愁とかそういうものに似た、何かである気はする。
 あとは森山未來。良かったなあ。「人を見下すだけでギリ自分保ってる奴」という表現、そのままの存在感だった。黒子削ってるシーンも素敵。虚無感の権化とも言えるのか。他キャストもいちいち光っていた。とにかく贅沢な映画。(四〇〇)

 

怒り

怒り

 

 

 

カサブランカ

 第二次世界大戦下、モロッコナチスから逃れてアメリカへ渡ろうとする人たちの物語。タイトルと有名な劇中のセリフだけは聞いたことがあったが、完全に初見。お芝居、セリフ、全てがとても時代がかっている。それをわざとらしく不自然に感じる……のはきっと、実際に撮映された時代が現在からはかけ離れた遠い過去だからなのだろう。とはいえ、イングリッド・バーグマンは文句無く美しい。劇中で二人の男を狂わせる美貌として、充分すぎる説得力がある。
 作中で表現されている戦時下の緊張感は、残念ながら自分には伝わりきらなかったように思う。パリ陥落の悲劇性もカサブランカの頽廃も、やはりよくわからんなあ、というのが正直な感想だ。想像の埒外というか。緊張というよりもむしろ、なんだかのんびりしているなあ、という印象の方が先に立ってしまう。面白くなかったわけではない。しかし劇中の空気にシンクロしきれなかったのは、とても残念である。(四〇〇)

 

【追記】
 でもやっぱりフランス国歌合唱のシーンは格好良かった。ベッタベタなのかもしれないけど、純粋に良いなあと思えたシーン。あと、ナチスという言葉は出てきたけれど、鉤十字が出てこなかった気がするのは気のせいだろうか。

 

カサブランカ (字幕版)