ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

寒い国から帰ってきたスパイ

 ル・カレ初読。007をはじめとしたスパイもののプロットの教科書のような作品だった。

・汚名をそそぐために頑張る主人公
・日常世界を象徴するヒロインとのロマンス
・ライバルとの友情
・拷問
・愛と死

 箇条書きすると、以上のような。
 21世紀に読むと斬新なのは、冷戦当時にはマジでインターネットもスマホも何もなかったことで。作中世界は1950年代末から60年代なので、諜報資金の送金すらアナログで。そりゃ疑心暗鬼にもなるし騙し騙されの世界にもなるなあと、変な感慨が。
 読みやすい作品ではないし、ジェームス・ボンドみたいなアクションはない。むしろ全体の半分ぐらいは尋問と供述の描写である。辛いといえば辛い。ただ、ラストシーンをはじめ、いくつかのシーンは名画そのもののように美しい。行動や思想がアナログに制限されている時代だからこそ、発揮される美しさ。その美しさを楽しむために読むのも、良いのかな。(四〇〇)

 

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)