ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

遠い昭和のランドスケープ②/『時をかける少女』

遠い昭和のランドスケープ①/『時をかける少女』 - ヨンマルマル
 人間はタイムリープが好きだ。主語も述語も大きいが、概ね真実であるのではなかろうか。そして多くの時間跳躍譚はラブロマンスと密に結びつく。本作も例外ではない……しかし。この『時をかける少女』という作品は、昭和の地方都市の描出を全面に押し出したため、SF要素はもちろんのこと、恋愛要素すらも後景となっている気がする。かつ、主人公・原田知世の素朴さ(≒山出し感)も、この傾向に拍車を掛けている。個人的には、彼女が深町くんをなぜ好きになったのかが、まったくわからない……(つまり恋愛譚の主軸となる関係性構築に、納得感が持てない)。
 だが、それで良い、いやさ、それが良いのだと思う。気張りすぎず落ち込みすぎず、独特の緩さの中を進行していく物語には、遠く遠くなった昭和後期の息遣いが残っている。その吐息が、僅かだけ残った私の朧な記憶を快く刺激する。『時をかける少女』という作品もまた、時をかけ続けているのである。(400字)

[スタッフ]
製作/角川春樹
監督・潤色・編集/大林宣彦
原作/筒井康隆
脚本/剣持亘
音楽/松任谷正隆

[キャスト]
芳山和子(主人公、エンディングが大事)/原田知世
深町一夫(和子が思いを寄せる同級生、草花が好き)/高柳良一
堀川吾郎(和子の同級生、すごい良いやつ、醤油屋)/尾美としのり
福島利男(漢文の先生、たぶん良い人)/岸部一徳