ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

 2016年に本作を映画化した『裏切りのサーカス』を観ている。正直、ストーリーがほぼほぼ理解できなかったと記憶している。その後、仕事の関係で「キム・フィルビー事件」を頭に叩き込まねばならない状況になり、ようやく全体の概要が掴めた。英国情報部〈ケンブリッジ・サーカス〉に身を潜める二重スパイ〈もぐら〉を炙り出す、それがあらすじだ。この二重スパイという存在がとにかく難解であることが、読解を阻害しているように思う。
 いや、そもそもスパイという存在自体が、2010年代後半に生きる我が身からは想像し辛いのかもしれない(卑近な問題にばかり関心が向くからか?)。ただ、そこからまた一周回って、現状の国際情勢は新冷戦とも呼びうる状況に突入している。であれば、5年先10年先に読み返せば、また違う感想を持つ、のかも知れない。
 国際政治に関わる知識もさることながら、ロンドンの地理に明るいと、楽しみ方が変わるかも。(四〇〇)


【追記】
ティンカー(鍵屋)、テイラー(理髪師)、ソルジャー(兵士)、プアマン(貧者)、ベガーマン(乞食)……というコードネームはカッコいいし、情報部と書いて「サーカス」と振られるルビもカッコいい。ただ本当に本当に、分かりやすくお話が進んでいかない……。池上冬樹氏の解説の中で、本作に影響を受けた作品として『ハルビン・カフェ』が出てくるが、お話の主筋を追い難い、という意味で両作は共通しているようにも思う。かといって、本作や『ハルビン・カフェ』のような作品が嫌いかと言うと、むしろ真逆だ。仄暗い黄昏の中を男たちが這いずり蠢く小説には、やはり無類の魅力がある。特に、諦観と嘆息を武器にもぐらを追い詰めていく主人公スマイリーは、とんでもなくカッコいいのだ。

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)