ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜

 ポスターのソン・ガンホさんの笑顔に騙されてはいけない、これはタクシー漫談ではない。仕事の関係で薦められてユジク阿佐ヶ谷にて。1980年に韓国で起きた光州事件という民主化弾圧と虐殺事件、その実態を取材しようとしたドイツ人記者(トーマス・グレッチマン)と、彼を乗せて現地入りしたタクシードライバーソン・ガンホ)のお話だ。実話をもとにしたフィクションである。
 何かが起こっている、しかしその何かがよくわからない……という演出が秀逸。主人公たち(タクシードライバーと記者)は、中盤まで何が起こっているのか把握できていない。そればかりか、光州の人たち自身も実は、何が起きているのかわかっていない。だから、緊張感のない日常描写と銃声や軍靴が、劇中で思わぬ交錯をする。
 実際に事件や事変、あるいは戦争が起きるとき、私達はどれぐらい自覚的であれるのだろうか。本作は「あなたは気づけますか?」と、鋭く問うてくる。(四〇〇)