タイタンの妖女
登場人物の誰もが救われない、辛く寂しい物語として読んだ。いや、読んでしまったというべきか。
本作には直線的に進むと考えられている時間軸の、どこにでも存在することができる男と犬と、その男に人生を翻弄される男と女が描かれる。三者三様に、救いがない。
原書が執筆されたのは1959年。キューバ革命が起き、チベット蜂起が起き、ルナ2号が月に衝突した年だ。そして東京オリンピックの開催が決まった年でもある。戦争終結から14年。日本で言えば戦後復興が進んで世相がどんどん明るくなっていく、希望に満ちた時代だったはず。翻って戦勝国のアメリカでは、閉塞や停滞のムードが色濃かった……のか。この作品からは、人間という種族への深い深い絶望や諦観のメッセージしか読み解くことができなかった(人間への憎悪すら感じた)。
さて、この本を「君にすごく良く合っている」と薦めてくれた元同僚は、一体どういうつもりだったのだろう……。(四〇〇)
【附記】物語の最終盤に出てくるサロという名の機械生命が、よほど作中の他の人間よりも人間臭く描かれている気がする。これも一種の諧謔なのだろうか。
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/02/25
- メディア: 文庫
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