ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

美人画百景/「コレクター福富太郎の眼」

六月の終わりに、東京ステーションギャラリーの「コレクター福富太郎の眼」展へ。後輩の熱烈推薦と、鏑木清方の《妖魚》に、ちょっとだけあった仕事上の関わりのため。 福富太郎は「昭和のキャバレー王」との異名を持つ実業家(でいいのか?)で、高名な絵画…

一億総中流という虚構が崩れた未来の片隅で/あのこは貴族

コロナ渦以降、しばしばテーマになっている「分断」という言葉。そうした流れを意識したのかそうでないのかはわからないが、本作も分断や対立を題材にしている。しかし評価されるべきは、その先に見える可能性を描いていることだと思う。 医者の娘の華子(門…

ケルナグール1989/アトミック・ブロンド

近接戦闘が鬼強のセロンさまによるステゴロエンターテインメント……! とはいえ、いわゆるスーパーパワー系のヒーロー無双ではなくて、ガンアクションも要点のみで、ひたすらリアルさ(あくまで、っぽさだとは思いますが)重視の、殴る蹴る怒突き回す叩きのめ…

(きっと)思春期のまち/街の上で

下北沢の古着屋でバイトしたかったんです。シモキタに住んで、バイトして、飲んで笑って彼女を見つけて……。そういう生活に死ぬほど憧れていた時期があります。十五年以上むかしのことです。 主人公、若葉竜也演じる荒川青は十五年前の理想像そのもので。最初…

ドンソクさんに恋をして/新感染 ファイナル・エクスプレス

高速鉄道の車中でゾンビものを2時間って、お話がもつのだろうか……という心配は完全に杞憂で。マ・ドンソクに見とれていたら、あっという間でした。ドンソクさん、なんちゅうカッコいいんじゃ……! ゾンビからのサバイバルという主題どおりの内容ですが、全体…

おバカな二人、翔ぶが如く/21ジャンプストリート

ハイスクールでは別々のカーストだった二人が、ポリスアカデミーで再会して親友に。その後、よりにもよって麻薬売買が横行しているハイスクールへの潜入捜査を命じられる(この潜入捜査専門の所轄署的なものの名前が「21ジャンプストリート」)。しかし、今…

きらきら光る、すべての星よ/ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

劇場公開時、20代の後輩たちがビビッドに反応していた本作。Netflixでようやく観れた。ハイスクールをクソ真面目(Booksmart)に過ごした女子ふたり、卒業式前夜のはっちゃけを描く青春グラフィティ。全編、徹頭徹尾「青春」そのもの。 クソダサい部分、格好…

人の叔父さんを笑うな!/私の叔父さん

後輩の熱烈な推薦により鑑賞。両親を早くに亡くした28歳のクリスは、自身を引き取って育ててくれた叔父と、デンマーク非都市部で伝統的酪農に従事して生活している。叔父さんは高齢で足も悪くしているため、軽度の介護が必要。そんなふたりの静かな日々を描…

世界観という呪い/花束みたいな恋をした

映画館に行きたい、行きたいと思えど、なかなか足を運ぶ時間が取れず。結果、五ヶ月弱ぶりになりますが、これはさすがに行ってきました。坂元裕二脚本&土井裕泰監督『花束みたいな恋をした』です。 1982年生まれ。2001年上京。以来、2021年現在までの20年ほ…

発酵した暗黒/『鵞鳥湖の夜』

逃げる男と、ついてくる謎の女。関係性と緊張感だけで何杯も呑める良作。貧困の情景も地方の倦怠も暴力的な混沌も、すべて良かった……。 警官を誤射して指名手配された犯罪組織の男、つきまとう水浴嬢(遊泳中に売春する娼婦)の女、ふたりを追う警察(見た目…

色とりどりのプロパガンダ/『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』

存命人物のドキュメンタリーを製作するのは、難しいことだと思う。なぜなら、その人物自身の「直接的/間接的」介入を防ぎようがないから。前知識ゼロでなんとなく観たが、色々考えさせられた。 ピエール・カルダンという、世界的に有名なファッションデザイ…

戦争に間に合う/『この空の花 長岡花火物語』

戦争のことなんて知っている。学校で習った。本で読んだこともある。半世紀以上前に悲惨なことがあった。だから繰り返してはいけない。……こんな風にして、理解した気になっていました。なんという浅はかな態度であることか。本作で描かれた長岡空襲のこと、…

第四の壁を壊し、観客を殴る。グーで殴る。/『海辺の映画館―キネマの玉手箱』

映画にできることってなんだろう。大林宣彦監督は、本作『海辺の映画館―キネマの玉手箱(英題:Labylinth of Cinema)』を通して「それは、未来を変えることだよ」というメッセージを遺された。と、思う。 戦争のことを知りたい、と銀幕に消えた少女を追って…

抜かりなきコメディセンス/『EXIT』

Netflixの韓国ドラマ『愛の不時着』や『梨泰院クラス』にドハマリしてしまっている所為で、映画も韓国のものをもっと観たいなという気持ちが止まず、本作をセレクト。「映画を観たなあ!」というのが一番の感想。ストーリーは、毒ガステロが起きたソウルの街…

終わらない歌/『タゴール・ソングス』

知らないことを知れるのが映画の良いところ。ただ知らない情報というだけではなくて、知らない音を、知らない景色を、知ることができる。インドやバングラデシュという土地がこんなに美しいことを、私は何も知りませんでした。この作品を観るまでは。 非ヨー…

これは世を忍ぶ仮のチキン/『エクストリーム・ジョブ』

あの『パラサイト』を抜いて韓国映画興行収入一位と聞き、興味が湧いて『エクストリーム・ジョブ』を鑑賞。プロットはシンプル。お取り潰し寸前の麻薬捜査班が、起死回生を図ってフライドチキン屋を買い取り、裏社会の大物の張り込みをするのだけど、その店…

観るタイミング、観れないタイミング/『日本沈没2020』

2020年4月から7月という時期(前段として) かれこれ3ヶ月ほど映画を観ていません。理由はいくつもあるのですが、コロナ渦という状況に振り回されてしまった、それでなんとなく観る気になれなかった、というのが大きいです。また、映画館に行こうとしては「…

貴種流離ハンマー/『マイティ・ソー』

MCUマラソン4作目。マーベルは現代もの、という勝手な思い込みから「ファンタジーってどうなん?」という先入観がありましたが、完全に杞憂でした。北欧神話を下敷きに、現代アメリカ(つまりアイアンマンなどが居る世界)に追放されたオーディンの息子ソー…

存在の耐えられない軽さ/『アイアンマン2』

MCUマラソン3作目。あかん、イケおじトニーがどうしても好きになれん……。『インクレディブル・ハルク』の感想(美女と野獣ニューヨークへ行く/『インクレディブル・ハルク』 - ヨンマルマル)で「トニー・スタークには、なぜ弱さの描写がないのか」と書きま…

美女と野獣ニューヨークへ行く/『インクレディブル・ハルク』

MCUマラソン2作目。私はトニー・スタークより本作の主人公ブルース・バナー(エドワード・ノートン)の方が好きだ。理由は後述。スーパーソルジャー計画の実験失敗で緑の怪力巨人(=ハルク)になってしまったブルース氏が、アメリカ陸軍に追いかけ回される…

手造りおっさんヒーロー/『アイアンマン』

こんな時なので。MCUマラソン(『アイアンマン』からひとまず『エンドゲーム』までが目標)を開始しました。なぜMCUシリーズがここまで人気になったのかを知りたかったので。ちなみにこれまで、恥ずかしながらひとつも作品も観たことはありません。意識して…

遠い昭和のランドスケープ②/『時をかける少女』

(遠い昭和のランドスケープ①/『時をかける少女』 - ヨンマルマル) 人間はタイムリープが好きだ。主語も述語も大きいが、概ね真実であるのではなかろうか。そして多くの時間跳躍譚はラブロマンスと密に結びつく。本作も例外ではない……しかし。この『時をか…

遠い昭和のランドスケープ①/『時をかける少女』

大林宣彦監督、ご冥福をお祈り申し上げます。大林作品は『異人たちの夏』しか観たことがなかったため、この機会に有名な「尾道三部作を!」と意気込んでみたけれど、一作目『同級生』の配信が無く……二作目の『時をかける少女』から。 偶然にもタイムリープと…

自分がドラマに求めるもの②/いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう

(自分がドラマに求めるもの①/いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう - ヨンマルマル) 恋愛劇の中の生活にリアリティを持たせるために、キャストの演技力は必要不可欠なものだが、本作の出演陣は……全員良かった。全員好きです。強さとひたむきさを同…

自分がドラマに求めるもの①/いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう

自分がドラマに求めるものは、なんだろう。……などと益体もないことを考えたときの答えのひとつが、本作『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』である。というか観終わって結論がそうなった。 東京を舞台にした20代男女の恋愛群像である。そんな作品…

ネオ・ノワールへの耽美②/バビロン・ベルリン シーズン1

(ネオ・ノワールへの耽美①/バビロン・ベルリン シーズン1 - ヨンマルマル) 映画でもドラマでも、ドイツを舞台にした作品を観る機会は少なくて。ましてやドイツ製作で全篇がドイツ語というドラマは、たぶん初めてだったので、新鮮な視聴体験になった。パリ…

ネオ・ノワールへの耽美①/バビロン・ベルリン シーズン1

ドイツ狂の後輩が激推しをしていたドイツのドラマシリーズ。たまたま、GYAOでシーズン1のみ無料公開していたので、一気に視聴。舞台は1929年、第一次世界大戦の終戦から約10年経過したドイツのベルリン。ケルンから極秘任務を帯びて赴任したラート警部と、娼…

最高のプロット、最高のママ/映画『ジョジョ・ラビット』

ヒトラーがイマジナリーフレンドとして現れるぐらい、ナチスにどっぷりな10歳児ジョジョ・ベッツラー。彼の自宅の屋根裏に隠れていたのは、美しいユダヤ人の少女・エルサだった……。プロットとしては完璧です。しかし物足りなさがだいぶ残ったというのが、正…

MOTコレクション第3期 いまーかつて 複数のパースペクティブ/東京都現代美術館

上野の美術館群に言語化し難い苦手意識を持っている私にとって、江東区の東京都現代美術館は落ち着いて過ごせるアートスペースのひとつである。もちろん上野にも上野の美術館にも罪は無い。悪いのは勝手な思い込みを持つ私だ。 集合展「仮の声、新しい影」を…

Echo after Echo 仮の声、新しい影/東京都現代美術館

2019年にリニューアルオープンした東京都現代美術館へ。リニューアル後に訪れるのは初。お目当ては、集合展「仮の声、新しい影」に出展していたTHE COPY TRAVELLERSだ。上蓋を取ったコピー機と一緒に世界を旅して、ありとあらゆるものをサンプリングする3人…