ヨンマルマル

四百字詰原稿用紙一枚分の雑記

日の名残り

 カズオ・イシグロさん、ノーベル文学賞受賞おめでとうございます。
 その流れで本作を鑑賞しました。
 ……明るい映画では無い。むしろ暗い。そして辛い。歴史映画とも言えるが、まあ失恋映画というのが正しい。とある英国貴族が世界大戦の戦間期に迎えた苦難、そして彼に仕えた執事の半生。および不器用すぎる彼(アンソニー・ホプキンス)の顛末。
 気持ちを素直に表現できないという行為は罪である。罪であるから思わぬ悲劇を生むのだ。……これは言い過ぎだろうか。執事の彼が素直になれずに固執したのは、職業倫理なのか、貴族の従士としての誇りなのか、ないしは英国人男性に特有の何かなのか。いずれにせよ彼は罰を受けるのだが。
 斜陽、斜陽族という言葉があるが、落日を見つめていたのは日本人華族だけではなかった。苦い郷愁感に包まれた作品。作中の人物にどれだけ感情移入できるかは、これまでどんな人生を送ってきたかに拠る気がします。(400字)

 

日の名残り (字幕版)

日の名残り (字幕版)

 

 



異人たちとの夏

 『廃市』と並んで観たいと思っていた大林宣彦監督作品をようやく。40代の主人公(風間杜夫)が10代のときに死別した30代の父母(片岡鶴太郎秋吉久美子)と再会するという、ノスタルジックさとファンタジー感溢れる一本。……と、それは良いのです、孤独な男と若い両親との不思議な邂逅というテーマ自体は、興趣に溢れている。ただ、風間杜夫の周囲には謎の美女(名取裕子)も現れて、この女が……とにかくもう……色々ぶっ壊してしまっている、悪い意味で。郷愁や愛別の気持ちだけで映画を構成してはいけなかったのだろうか。
 ただ本当に、寿司職人の父を演じる片岡鶴太郎とその妻を演じる秋吉久美子は、良かった。冷房も扇風機も無い浅草の安アパートの二階の一室、諸肌脱ぎになって興じる花札、親子三人で囲む今半のすき焼き……等々。自分はそうした時代を知らないけれども、無条件に美しいなあと感じてしまう何かがフィルムに映し込まれていた。(四〇〇)

 

あの頃映画 「異人たちとの夏」 [DVD]

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Fate/stay night Heaven’s Feel Ⅰ. presage flower

 結局、Fate本篇のゲームは一度もプレイせず、全てアニメで楽しんできた。惜しいことをしたな、とも思う。Wikiを見ると「初版」の発売は2004年。2017年現在から溯ると13年前。ディーン版のUBWは2006年でufotable版のUBWは2014年と2015年、それぞれ公開されている。PCゲームの頃から楽しんでいれば、今回のHFの公開はもっと違った思いで受け止められたかも知れない。
 ともあれ。HFの公開発表からずいぶん待った気もするが、その甲斐は充分にあった! クオリティーは申し分ない。細かな演技まで丁寧に作り込まれていることが、陰鬱この上ないHFの雰囲気と良くマッチしている。放課後、夕暮れ、夜、雨、雪……質感と情感を持って表現されるそれぞれのシーンの演出は素晴らしかった。士郎の格好(特にシャツ)そのものは垢抜けないにも関わらず、画が古びて見えないのは、細かな演出努力の賜物なのだろう。(四〇〇)